【環境問題の基礎知識No.01】四大公害病と世界の環境問題

今後私たちがより真摯に環境問題に向き合い積極姿勢で脱炭素に取り組んでいくには、地球上の環境問題がどのように蓄積されてきたのか、その背景を知ることが必要です。

今回は、現在日本国内で示されている環境基準が生まれるきっかけになった公害について、その概要と現状をお伝えするとともに、世界中で次々と明らかになり、今も国際的な重要課題となっている環境問題についてまとめます。

目次

【環境問題の基本】日本人なら知っておくべき四大公害病とは?

四大公害病とは一般的に「イタイイタイ病」「水俣病」「新潟水俣病」「四日市ぜんそく」のことをいいます。教科書の中で目にする歴史上の出来事のようにとらえている人もいるかもしれない公害病ですが、それらは皆、今なお現在進行形です。ここでは日本の四大公害病の概要についてわかりやすく解説します。

イタイイタイ病

岐阜県の神岡鉱山からしみ出した「カドミウム」が原因で生まれた公害病です。富山県神通川流域で起き1968年に公害病と認定されましたが、大正時代にはすでに発生していたとされます。

汚染地域で生産された農作物を食べた人の腎臓に障がいを引き起こし、カルシウム代謝に異常を来すとされます。発症した人は骨がもろくなり、ちょっとしたことで骨折してしまうという恐ろしい病気です。

イタイイタイ病の現在

イタイイタイ病はカドミウム汚染地域での生活経験があるなど、国が定めた4つの条件をすべて満たしている人が認定対象となります。1967年に初認定があってから2023年末までの間にイタイイタイ病患者と認定された方は201人とされ、この時点で生存されている方は1人だったということです。また、同時点で経過観察が必要だと判断された人は345人に上ったとされます。

水俣病

熊本県水俣市の化学工業メーカーが化学製品の製造過程で使っていた水銀が地域住民に健康被害を及ぼしたものです。

工場排水に含まれていた水銀が自然界に流れ出し、それを取り込んだ魚介類を食べた人々が発症。感覚障害や運動失調などさまざまな形で深刻な症状をもたらし、企業と患者の間で和解が成立するまでに長年を要しています。初めて発見されたのは1956年とされています。

水俣病の現在

熊本大学の研究班が水俣病の原因物質を特定したのは1963年です。1968年には政府が問題となった工場の排水と水俣病の因果関係を認める見解を発表、その前年には患者側からの初訴訟が起きていました。

発生の原因となった企業側は被害者対応や裁判はもとより、漁業関係者への補償にも対応。政府や行政も患者のみならず、長きにわたって企業側への支援策を施していますが、訴訟は未だ継続中です。水俣病患者数の現状を以下に引用します。

2022(令和 4)年 4 月末現在、行政により認定された患者の数は、熊本県 1,791 人、鹿児島県 493 人の合計 2,284 人に上っています。 水俣病の公式確認から 65 年以上経ち、生存患者数は同月末現在で 268 人です。
https://minamata195651.jp/pdf/kyokun_2022/Minamata-Disease-iHaL_2022_Ja.pdf

新潟水俣病

熊本県水俣市で発生した水俣病に続いて発見された公害病です。当時、酢酸・酢酸ビニルなどの原料としてアセトアルデヒドを生産していた大手化学メーカーの工場排水に混じっていた、メチル水銀が原因とされています。

この排水が流出した阿賀野川流域で有機水銀中毒患者が多数発生。症状は手足の痺れや震えといった感覚障害・運動失調などのほかさまざまで、被害はペットや家畜にまで広がったとされています。

新潟水俣病の現在

阿賀野川では新潟水俣病発生以降、川の水の水銀量調査が続けられてきたといいます。1965年当時には水銀値の高い魚がいたそうですが徐々に少なくなっていき、1978年には安全宣言が出されています。継続的な調査は現在でも続いており、国が定めた暫定値を超える魚は検出されていないため、新たに新潟水俣病にかかる人が出ることは考えにくいということです。

四日市ぜんそく

高度経済成長の中にあった1960年頃より、三重県四日市では石油化学コンビナートと呼ばれる工場群が本格稼働を始めました。この施設を動かしていたエネルギー「中東原油」に含まれていた亜硫酸ガス(二酸化硫黄)が大気中に排出され、地域住民の多くがぜんそくなどの呼吸器疾患に苦しみました。

特に冬季には季節風の影響で磯津地区に被害が集中したとされますが、原油に含まれる硫黄分は、酸化が進めば進むほど人体に大きな影響を及ぼすと言われています。気管支炎や肺気腫の症状に苦しんだ患者さんも少なくなかったそうです。

四日市ぜんそくの現在

公害健康被害補償法に基づく認定患者は2022年3月末現在で310人とされ、未だ症状に苦しむ人がおられるのが現状です。現在地域の方々が直面している課題は、後世にこの病気のことを語り継ぐ「語り部」の高齢化や減少。つらい過去が繰り返されないためにと、市民グループによる活動が今なお熱心に続けられています。

【国内の公害だけじゃない】地球規模で顕在化した環境問題とは?

日本の公害問題は1967年の「公害対策基本法」施行に繋がり、さらにより広い環境問題対策を進めるために施行された「環境基本法」へと発展しました。こうした流れの背景には、地球規模でさまざまな環境問題が露呈し、日本にも課題に取り組む機運が高まってきたことがあります。ここでは現在、世界規模で共有している主な環境問題をまとめてみました。

オゾン層の破壊

初めてオゾン層が破壊されつつあることが報告されたのは1970年代半ばのことです。続く1982年9月~11月の報告では、南極上空のオゾン層が破壊されていること、それに伴いオゾンホールが出現していることがわかりました。

この頃より、オゾン層破壊の原因物質が、特定のクロロフルオロカーボン類(フロン)であることが解明され始めています。フロンとはエアコンなどの冷媒や半導体の洗浄用として使われている身近な化学物質です。

生態系・生物多様性の危機

自然環境が破壊されてきた課程で、野生動物の減少が問題化してきました。土地や山の開拓、乱獲などによる野生動物の生育地の減少や生育環境の悪化は、人間の経済・文化活動が大きな原因とされています。

また、里山や森林の手入れ不足による動物・生物の個体数減少が指摘されているほか、外来種の到来に伴う生態系の乱れも深刻です。

海洋酸性化

温室効果ガスの影響による地球温暖化が原因で、海水温・海面水位の上昇が起きていることはよく知られています。これに並行して、大気中に排出された二酸化炭素が海水に溶け、海水のアルカリ性が弱まっているとの指摘があります。

海洋酸性化が進むと海水が二酸化炭素を吸収する力が弱まるため、大気中の二酸化炭素がより増えて地球温暖化が加速したり、海中の生態系が乱れたりするリスクが高まります。

資源の枯渇問題

人間の文化や経済は地球上の天然資源を頼りに発展してきました。産業や経済が目覚ましい発展を遂げるかたわら、石油や天然ガスなどがさかんに採鉱され続ければ、こうした地下資源はいずれ枯渇してしまうでしょう。

国立環境研究所によれば、『地域別の生産量予測から推計すると、世界の石油生産は2010年から2030年頃にはピーク(頂点)を迎えその後は減っていく』という説もあるといいます。また、工業・農業に必要不可欠な水資源は、枯渇リスクとともに隣接国同士の紛争の原因となるリスクも抱えています。

化学物質等による健康被害

工場や自動車などから排出されるVOC(揮発性有機化合物)、ディーゼルエンジンの排気ガスや工場の煤煙などに含まれるSPM(浮遊粒子状物質)、SPMの中でも2.5μg/m3以下の微小粒子状物質(PM2.5)といった化学物質は、健康被害をもたらします。

また、こうした物質が大気中で光化学反応を起こして生じる「二次粒子」は光化学スモッグの原因となり得ます。特にPM2.5は国境を越えて拡散する物質として知られ、恐れられています。


数々の環境問題が明らかになり、世界はどう動いたのか、別の記事では地球環境に対する国際的な取り組みなどについてもわかりやすく説明しています。ぜひそちらもご覧ください。

まとめ:環境問題の歴史に目を向け今ある課題について考えよう

四大公害病が広く知られるようになると、日本国内にもようやく環境問題に対する意識が芽生え始めました。その後、地球上で自然環境の破壊が進んでいることが世界中で検証され、今では国際的な課題として危機感が共有されています。

環境や健康に大きな被害をもたらす環境問題にはどのようなものがあるのかをまずは理解し、その問題ひとつ一つを見直す中で、どのような対応や行動が「我が社」でできるのか?
それを考えることが目的を持った企業の環境保全活動に繋がります。
結果的に、それは企業のブランディング促進、永続的な経営活動に繋がって行くのです。

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この記事を書いた人

Dステ編集部は、編集長であるDuoPartnerDesignの松口を中心に、環境教育を履修・資格取得したメンバーで構成されています。環境問題とビジネスの関係や、SDGsに対する幅広い情報・知識を、できるだけ専門用語を使わずわかりやすい言葉で皆様に共有します。また、こうした情報・知識をいかにして企業の広報やブランディングと繋げていくのかを常に考え、役立つコンテンツとして発信していく考えです。

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