【本音はいかに?】中小企業の脱炭素を阻む課題と解決の糸口

2050年カーボンニュートラル実現に向け、社会全体が脱炭素への取り組みの必要性に気づき始めている日本社会。あなたの会社はどのように脱炭素に向き合っていますか?

脱炭素への取り組みをもっと加速させたい気持ちはあっても、実際問題「いざ進めようとすると課題が山積していて難しい」と感じる企業は多いのではないでしょうか。

今回は脱炭素を本格化させようとする中小企業にとっての課題とその解決策について考えます。
2023年1月に日本政策金融公庫総合研究所が発表した資料をご紹介しながらわかりやすくお伝えしていきますので、
ぜひ自社の脱炭素の課題と照らし合わせてご覧ください。

目次

脱炭素への取り組みが最も進んでいる業種は「卸売業」「製造業」「小売業」

脱炭素への取り組みといっても内容はさまざまです。
しかし、一般的には次のような取り組みを実施している企業が目立ちます。

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省エネルギー再生可能エネルギー使用資源消費の削減(エネ以外)
リサイクルリサイクル製品の使用次世代自動車の購入・利用
温室効果ガス使用削減人の移動の抑制温室効果ガスの吸収

日本政策金融公庫総合研究所が行った意識調査の結果、こうした取り組みを積極的に行っている企業の業種には一定の傾向が見られたといい、全般的に取り組みが進んでいる業種ランキングベスト3は以下のようになりました。

全般的に取り組みが進んでいる業種ランキングベスト3

1位 卸売業 53.9%
2位 製造業 49.5%
3位 小売業 48.1%

出典:日本政策金融公庫 総合研究所 中小企業の脱炭素への取り組みに関する調査
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230120_1.pdf

工場系・製造系の業種がトップ3を占める結果となりました。この3業種が脱炭素への取り組みを比較的進めやすい理由とは何なのでしょうか。次に見ていきましょう。

なぜ製造系事業は脱炭素への取り組みを進めやすい?

製造業、卸売業、小売業者が、建物の中で最も多くエネルギーを消費するのが空調設備とされます。照明設備の消費エネルギー量の多さも共通点として挙げられるでしょう。また、作業段階や陳列時には冷蔵・冷凍機器にたいへん多くのエネルギーを使用するという実情もあります。

そのため、まずは照明機器をLEDに変更し、次に空調をCO2排出量が少ないタイプに更新するなど、低CO2タイプの設備機器を導入していくたびに、脱炭素がかなり効果的に推進されることになるのです。

製造業者のCO2排出量が削減されれば、それを仕入れる卸業者、卸から仕入れる小売り業者も自ずと扱う製品のライフサイクルCO2を効果的に削減することができます。

事業規模が大きいほど脱炭素への取り組みが実施できている傾向

この記事で参考としている日本政策金融公庫総合研究所による資料では、事業規模が多い企業ほど、脱炭素への取り組みが実施できているというデータが見られます。

資料をもとに、実際の数字をチェックしてみましょう。

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脱炭素への取り組み(全体)を
「大いに実施していた」+
「ある程度実施していた」と答えた企業割合
従業員数
39.8%5~9人
45.9%10~19人
48.3%20~49人
66.0%50~299人

https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230120_1.pdf

事業規模と脱炭素への取り組み実施状況は、明らかに比例関係にあることがわかります。事業規模が大きい企業ほど、脱炭素への取り組みが進んでいるということになります。

手間ひまや一定以上の時間が必要な脱炭素への取り組みには、それを賄えるだけのリソースが必要となる傾向が強いのです。

このデータは、事業規模が小さくても脱炭素を推進したい企業にとっての課題が垣間見られる結果となっています。

業況が良い企業の方が脱炭素への取り組みに熱心?

景気が良い業種・業界にある企業の方が、脱炭素への取り組みが進んでいるというデータがあります。

下の表をご覧ください。
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脱炭素への
取り組み状況
(業況が)良いやや良いやや悪い悪い
大いに進んでいる28.5%31.4%15.6%24.4%
やや進んでいる25.6%42.8%22.4%9.2%
どちらともいえない7.9%36.1%39.6%16.5%
あまり進んでいない6.4%32.2%38.2%23.2%
全く進んでいない7.7%25.1%33.4%33.8%

https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230120_1.pdf

業況が良い企業の方が脱炭素への取り組みを進めており、業況が悪い企業ほど取り組みが進んでいない傾向が顕著となっているのがわかります。

これは、脱炭素に対して関心が高かったり熱心であったりする傾向というよりも、経済的ゆとりがあるかどうかが関係しているかもしれません。

脱炭素への取り組みで最も達成度が高いのは「リサイクル」

中小企業の脱炭素の取り組みは、事業規模や業況によって進捗の度合いに差があることがわかりました。一方、取り組みそのものの内容も、業種ごとの傾向が出ているようです。

業種や経済状況によっては、省エネや再生エネルギーの利用、次世代自動車の購入などは実施するのに大変高いハードルがあります。

一方で、リサイクルやリサイクル製品の利用は、比較的導入しやすい活動。現に脱炭素への取り組み達成度について、調査対象となった企業による自己評価点が最も高いのはリサイクルだったといいます。全データの平均点は、リサイクルが4.2点で最高、2位はリサイクル製品の利用で4.0%と、平均点を上回っていました。

それに引きかえ、温室効果ガス自体の使用量削減は3.4点、次世代自動車の導入は3.3点といずれも平均点以下。温室効果ガスの吸収に至っては3.1点と、まだまだ本格的に取り組むにはハードルが高いことを伺わせる結果となっています。

本音がチラリ!脱炭素は「経営の負担にならない程度に」

中小企業が脱炭素への取り組みを行う理由として最も多く挙げているのが「企業としての責任だと思うため」。全体の25.4%の企業がそう回答していますが、実際には少数意見になればなるほど本当の胸の内が垣間見えてきます。

ここでは、脱炭素に取り組む中小企業の本音に迫りつつ、目の前にある課題や解決策のヒントについて考えてみましょう。

脱炭素に取り組む本当の理由は企業イメージ向上?

中小企業が脱炭素に取り組む理由について多数派意見は多い順に「企業としての責任だと思うため(25.4%)」、「社会的に求められているため(24.2%)」、「コストを削減するため(20.6%)」となっています。

しかし、当サイトではこれより後に続く比較的少数な意見に注目しました。これらの意見からは、中小企業ならではの大変リアルな思いが垣間見えるからです。

少数意見は以下のとおりです。
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中小企業が脱炭素に取り組む理由(第4位以下の少数意見)割合
企業イメージ向上のため8.1%
外部から要請されたため5.8%
新たなビジ ネスチャンス が得られる5.1%
売り上げを増やすため4.8%
法律で定められているため4.5%
補助金・ 優遇税制が利用できたため4.2%
資金を 調達しやすくするため4.0%

https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings230120_1.pdf

企業は脱炭素に取り組むことで社会のためになりたい、社会的責任を果たしたいと考える一方、やはりそこにビジネスでの優位性獲得を求めていることがわかります。

実はこのようなビジネス上の目的を達成するための方法を見つけることこそが脱炭素推進に繋がる、と言えるのではないでしょうか。

つまり、脱炭素への取り組みを行っていることを外部に積極的にアピールし自社のイメージ戦略を図ることで業績をアップさせ、さらに活動を推進させる、というサイクルを作ることは、一つの大きな理想と言えるでしょう。

取り組みの成果がプラスになったと実感している企業の割合

日本政策金融公庫総合研究所が公開している資料によると、脱炭素への取り組みが事業全体にとってプラスとなったと感じている企業は多くはありません。「大いにプラスとなった」と答えている企業は、全体のわずか3.6%という結果になりました。

「少しプラスとなった」と答えた企業でさえ全体の16.5%に留まっています。顧客数や売上など、個別の項目に視線を移しても、プラスとなったという実感が得られた割合は全体で示されたものと大差はありません。

脱炭素への取り組みで最もハードルの高い課題は「コスト」

脱炭素に取り組むことで社会貢献したい、しかし本音では会社のブランディングや業績向上に活かしたい。ここまでは、そんな中小企業の本音も見ていただきました。しかし、それは社会に役立ちながら利益を求める企業として当然の姿勢です。

脱炭素への取り組みを進めることにより、企業のイメージアップを図って業績や採用に活用することは大いに検討されるべきと言えるでしょう。そのためには、取り組みの障壁となる課題に向き合うことが重要となります。

脱炭素への取り組みは「手間がかかる」ことも大きな課題

脱炭素への取り組みを推し進めるには、多くのハードルがあります。日本政策金融公庫総合研究所による調査では、中小企業が脱炭素をもうひとつ推進できない理由となっている「課題」が、以下のように集計されました。

省エネ・再エネの利用など各項目について最大3項目まで複数回答可とした上で、取り組み全体をまとめた数値です。

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課題割合
コストが増える23.0%
手間がかかる15.0%
資金が不足している14.1%
どう取り組めばよいかわからない13.2%
必要なノウハウ や人材が不足している9.8%
どこに相談すればよいかわからない6.2%
従業員の協力が得られない3.3%
消費者・取引先の理解が得られない3.1%
その他3.7%

コストが最大の課題であるととらえる企業が多い一方、「手間がかかる」「資金不足」と答えた企業が多いのも特徴的です。また、取り組み方や相談先がわからないことを課題視している企業も多いことがわかりました。

社内では解決しづらい課題「ノウハウ不足」「どう取り組めばいい?」

中小企業が脱炭素に向けた活動をする中で大きな課題となるコストについては、補助金や税制優遇など、一部課題の解決策ともなり得る「答え」があります。

しかし、補助金や税制の活用も含め、自社が脱炭素を効果的に推進するためにはどんな取り組みをどうしていけばいいのか、ノウハウの不足についてはなかなか自社だけで「答え」を用意することは難しいでしょう。

そこでおすすめなのは、外部にリソースを求めることです。脱炭素の取り組みのために担当部署を開設したり、そのために人材を雇用したりすることは多くの中小企業にとって現実的ではありません。

そのような企業にとっては、脱炭素に関するノウハウを持ちつつ、補助金・税制優遇の選定や申請サポートをしてくれるコンサルタントを活用することが、課題解決までのショートカットに繋がります。

事業の状況を包括的に見て適切なアドバイスをくれる第三者を頼ることは、専門知識が必要な脱炭素推進には大変有効的なのです。

まとめ:脱炭素は自社内だけで課題を解決するのがなかなか難しい

今回は、中小企業が脱炭素に取り組む中での課題について考えてきました。脱炭素活動の課題に向き合う時、かなり参考になる資料もご紹介しましたが、「自社と同じ状況の企業は多いんだな」と思われた方も多いのではないでしょうか。

中小企業が脱炭素を推し進めるには、コストや手間、ノウハウ不足といった多くの課題があります。実はこれらの課題は、これまでどおり社内だけで何とかしようとしても埒(らち)が開かないケースも多いため、相談相手を外部に求めることはおすすめです。

カーボンニュートラルに対する意識や取り組みは、企業の将来にも関わってくるテーマ。ぜひ専門家の手を借りながら、効果的に脱炭素を進めていってくださいね。

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この記事を書いた人

Dステ編集部は、編集長であるDuoPartnerDesignの松口を中心に、環境教育を履修・資格取得したメンバーで構成されています。環境問題とビジネスの関係や、SDGsに対する幅広い情報・知識を、できるだけ専門用語を使わずわかりやすい言葉で皆様に共有します。また、こうした情報・知識をいかにして企業の広報やブランディングと繋げていくのかを常に考え、役立つコンテンツとして発信していく考えです。

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